そこ、行ってました。

でかけた場所を淡々とメモ。

長くひどく憂鬱な梅雨


 梅雨に本格的に入ったらしい。しかし、もう6月中旬なのだ。6月上旬もぐずつきがちな天気ではあったが、しかしごばっと雨が降る日はほとんどなかった。だいたい、本格的な梅雨のシーズンといえば、6月中旬〜7月上旬ぐらいが基本なのに、どうして6月=梅雨で7月=夏なのか。まあ7月といえば七夕もあるし、海の日もできたし、海開きもあるし、夏休みだし、スイカは甘いし、夏のイメージがより強くなるのはわかる。これに比べ、6月のイメージは確かに夏じゃない。紫陽花と入道雲のコラボレーションは考えづらいし、かたつむりは干からびてしまう。6月に夏を感じるためにはせいぜい夏至に「夏に至ったぞー!」などと言って勝手に夏感を高めることぐらいしか方法はない。それとて、雨の日の方が多いというのに。


 しかし、よくよく考えてみると雨の日と夏は必ずしも二律背反的ではない。別に夏に雨が降ってもいいわけだ。そう考えると、梅雨と夏が同意してもいいわけで、7月は「梅雨でしかも夏」という位置づけにしてもいいわけだ。しかし、世間はそれを許さない。幼稚園や小学校低学年で配られそうな日記帳は、6月の絵では降水を確認できるのに、7月のそれでは降水を確認できる機会は稀である。思い切って2ヶ月が雨でもいいじゃないか。七夕with雨。海開きwith雨。スイカは甘いwith雨。何の問題もないではないか。まあ、海開きに雨なら「あいにくの天気」という掛詞がつくのだろうけれど。


 第一、降水が主役になる季節など、梅雨と冬ぐらいしか無い。冬とて、降ることそのものよりも、降った結果の状態が重視されているのだから、降水が主役になる時期は6月しか無いのである。日本はケッペンの気候区分では大半が温暖湿潤気候Cfaもしくは冷帯湿潤気候Dfaに属しているように、降水の多い国である。瑞穂国という美称は稲が瑞々しく育つさまから名付けられているが、瑞穂をもたらしたのも降水、とりわけ梅雨と雪解け水である。また、二十四節気には降水と関係ある名称がある。雨水、穀雨、白露、寒露霜降小雪、大雪。若干冬のほうが多いがまあいい。沖縄では梅雨のことを小満芒種というそうだ。しかるに、日本と降水は切っても切れない関係なのに、しかし、疎まれることが多い。曰く出かけられないからと、曰くお足元の悪い中からと、曰く生憎の天気と、曰くアメフラシが湧くからと。


 そういえば、雨の日のマスコットキャラクターといえばかたつむりと言われるが、今もって思えばかたつむりはそんなに可愛くない、というよりむしろ圧倒的に気持ち悪い。ベチャッとたヌルヌルがたとえゆっくりとはいえズルズルと這いまわるその姿は、やはり圧倒的に想像したくない。いろいろな寄生虫を体の中に持っていると聞いてますますかたつむりが気持ち悪くなった。普通のかたつむりですらそう思うのだから、殻のないなめくじとか、体長10cmのアフリカマイマイとか、服部緑地ジャンボタニシとか、それを踊り食いしてしまうフキダラソウモンとか、間違っても街なかで出会いたくない生物のオンパレードである。オンパレードといって東京ディズニーランドのパレードに混ざっていてもダメなものはダメである。


 さて、かたつむりの天敵は数多く捕食されることも数多いが、その食われ方も気持ち悪い。鳥に食われるとか、イタチに食われるとか、フランス人に食われるとかする奴はまだいい。ヤマヒタチオビという他のかたつむりを食べてしまうかたつむりがいて、そいつに食われるとか、リクウズムシという聞くからになんだかよく分からない生き物に食われるのは勘弁したい。マイマイカブリに襲われて溶解液をかけられて溶かされるのもとても成仏できそうにない。しかし、何よりも想像したくないのはレウコクロリディウムに襲われた時のことである。


 レウコクロリディウムは何らかの形で体内に入ると、頭の方へ移動し脳をうまいこと乗っ取る。そして、鳥に食べられやすそうな木の上などへ乗っ取ったかたつむりを導き、そこへついたら頭に入っている体をぐるぐると動かす。その悪目立ちっぷりと言ってはスーパー玉出の看板でさえ節電中ですか?と疑問を差し挟むようなほど、酷い悪目立ちである。間違ってもyoutubeとかで見てはいけない。これを何かこいつこそがレウコクロリディウムに乗っ取られているんじゃないかと思うが、鳥は捕食する。そして、レウコクロリディウムは鳥の体内でさらに成長しました。めでたしめでたし、となる。この乗っ取られる身体というのを想像すると、実におぞましいではないか。自分の意志とは関係なく体が勝手に動き、危険地帯へと誘うのだ。しかも頭はスーパー玉出である。


 しかし、よくよく考えてみるとレウコクロリディウムに中間寄生されたかたつむりは、もし自我が完全に崩壊していればむしろマイマイカブリに襲われるよりマシなのかもしれない。かたつむりに自我があるかどうかは全く分からないし調べようという気にもならないが、かたつむりよりも鳥のほうがその後レウコクロリディウムの影響を長く受け、苦しむことになる。


 と、まあ梅雨時になるとレウコクロリディウムに寄生されていた頃を思い出すから長くひどく憂鬱なのだ。……え、レウコクロリディウムは北海道にしかおらず、でも北海道には梅雨はないからおかしいって?残念、北海道にも蝦夷梅雨と呼ばれる停滞前線の滞留があるのだ。